あなたの10年、どうだった?vol.2 - 前編
今回の記事では、「あなたの10年どうだった?」というテーマで、またっきーの個人的な知り合いの方に、過去10年間にあった出来事を振り返ってもらいました。
10年間。数字にすると重みがありますが、瞬く間に過ぎてしまうような年月でもあると思います。これを読んでいるあなたも、様々な出来事を経験し、様々な感情を抱いてきたのではないでしょうか。そういった、ごく個人的な歴史について、一緒に紐解いていきたいというのが、この記事の趣旨です。
お話の内容は、語り手の方から事前に用意してもらったトピックをもとに、可能な限り自由に語ってもらいました。この記事は、何かのテーマに特化した聞き取りではありません。仕事、学業、趣味、恋愛など、大切にしていた物事の移ろいに思いを馳せて、その時々のことを率直に話してもらうように努めました。
なお、お話の内容は、地名や特定の人物が分からないように編集しています。
▼10年前
初めての職場への限界 / 周囲との差 / 夢を諦める
―就職はこの頃?
就職してから、何年か経った頃でしたね。労働時間が長かった、単純に。それが、自分の中でめちゃくちゃ辛くて。結構…、結構やられてましたね。メンタル的にも身体的にも。自分の身体が崩れていくのを感じ始めたかな。
なんというか、仕事が嫌すぎて。ちゃんと出勤をするんですけど、力がだんだん入らなくなってくるとか、正常な思考ができないというか…。休みの日とかも、半日寝て、あとはぼーっとしてるみたいな。気力がない感じですかね。死んでたかな。その名の通り死んで…ゾンビだったな。ははは(笑)。
でも、初めて就いた仕事だし、夢を持って入ったとこだから、やんなきゃみたいな。
―自分のやりたい仕事だったんだ。
うん、夢を持ってやってましたね、本当に。
―どんな夢?
その頃は、フレンチとかイタリアンとかでお仕事してたんですよ、飲食店で。それで、めっちゃ大きい話ですけど、いずれフランスとか行けたらいいなって。そこで、お店を出すのか、修行するなりなんなりして…みたいなのを考えてましたね。
その、勤めたところも、結構有名なところで。だから、意気込んでたんですね、余計。自分のお店を出すために修行してるんだから、これが普通だよな、みたいな。この業界はこんなんだから、拘束時間長いのは当たり前、休みが少ないのも当たり前、みたいな。まあ、限界来てたんですけどね。実際のところ。
―限界?
身体的にもメンタル的にもですね。辞める半年前ぐらいから、毎日気力ない状態。友達と遊びに行っても、なんか寝てるみたいな。僕が運転役なら、みんなが遊んでいるあいだ、もう車の中で寝てるみたいな。で、明日からは普通に仕事みたいな。
―周囲との差というのは、どこで感じたんだろう?
このくらいの頃、周りも就職するか、学生してるかの友達が周りにいるわけだったの。それで、学生の頃から繋がったままのひとから、色々話聞くじゃないですか。「いま何してる」とか、「こういうことやろうとしてる」みたいな。それ聞いた時に…まあ、確かに自分は夢のためにっていう建前で頑張ってるけど、実際のところめちゃくちゃ辛いことしてる。それで進歩してるのかって言われたら、自分にはそう感じられなくて。そういった焦りとか、若さゆえの周りとの比較があったんですよね。 自分は何してるんだろうとか。
―自分は何してるんだろうとか…。
しかもゲイっていう、セクシャリティ的なところも比べてた。なんか、みんなは彼氏彼女ができ始めてて、なかには結婚したいとかっていう話が、始まるじゃないですか。でも、自分はなんか…何もないみたいな。就職して、独り身で、これからどうやって相手見つけて…みたいな。
―夢を諦めるというのは、どういったこと?
あ、仕事のことです。なんかこの状態で、この業界で生きてくのって、実力とかセンスとか求められるし。そのうえ、この労働時間が普通なんだとしたら、自分の時間ないし、みたいな。
―労働時間が長いのが決め手だったんだ。
朝9時に出勤して、夜の2時まで働いて、帰ってまた次の朝が来て…そういう毎日を繰り返してたから、「これが毎日続くんだったら、もう夢なんていいわ!」っていう感じでしたね。
▼9年前
働かないということ / 親友と自分
結局さっきの仕事は辞めて。半年以上…かな、働かずにいたんですよ。同じ学校に通ってた親友と、密に遊びだしたんですよ。時間ができたから。働かずに。
何かあったかって言ったらちょっとあれですけど、働かずに親友と無駄な時間を過ごすみたいな。それこそ、ネカフェでネトゲやって、帰ったら、なんか…寝て。反動ですかね、自由な時間を満喫してたと思う。それでまあ、自然とお金は無くなっていくから、その頃に就職かな?みたいな感じでしたね。気持ちを癒す時間っていうか。
やっぱでも、そのなかでも仕事してないっていう不安感とか、一生懸命やってた職場を辞めて、いま何してんのかな?みたいな気持ちもありましたけどね。
―そういう気持ちって、どんな時に来るのかな?
まあ、ひとりになった時ですね。うん。その寂しさを紛らわすのに…、まあ自分は恋人がいるわけでなく、家族に自分のことをそんなに打ち明けるような人間じゃないんでね。そうなった時に、親友と遊んでる時間が、寂しさを紛らわしてくれた感じかな。
―楽しかった思い出とかある?
なんだろうな…。もうひとり、高校時代から仲良かった友達がいて、その友達のところに無理やり突撃して、クルマで急に海行ったりとか。ああ、これ遊んでたね(笑)。本当に、若さだと思うんですけど、そういうのが楽しかったかな。久しぶりにね。遊べなかった数年間を取り戻すかのように遊んでましたね。
―遊びって大事だよね。
いや、大事ですね。仕事とのバランス大事だなって思います。大人になった今も。
―その考えは今もあるんだね。
うん、そうですね。仕事と私生活の割合って大切だなって思う。夢を諦めたというのも…、職場によっては違ってたかもしれないですよね。もうちょっと、こう、条件が、柔らかい所があれば…。拘束時間がね、もう少し優し目で、休みもちゃんと取れてみたいな感じだったら、よかったのかもしれない。
▼8年前
お酒の世界 / 好きとは何か
働かないとやばいなって思い始めて、まあ探すんですよね。仕事を。それで見つけたのが、結局、飲食業界なんですけど。
まあ、夢を諦めても、食に関する興味を失っていないから、やっぱ働くとしたらそういう道かなと思って。それで見つけたところが。そのお酒の世界だったんだよね。
お酒の世界って言っても、別に接待してとかじゃなくて。高級居酒屋ったらいいんですか?バーもあるし、普通に居酒屋みたいなメニューもやってるけど、めちゃくちゃこだわってて、安くもないみたいな。社長さんとかが来るようなとこだから、料理にもちゃんと力入れてるし。オーナーと店長が妥協しないひとで、めちゃくちゃ厳しかったですね。
―厳しさも感じつつ、ここで働くことにしたんだ。
地元の中心地で働きたいって気持ちがあって。そこにあるからまあ、いいかっていう気持ちもありましたけど。ただ、働く前に、お客として食べに行ったりとかもして、めちゃくちゃこだわっているところを見たんですよ。そのあと、話も聞きに行ったときも、「ここで頑張っていけば、自分のメニューを開発しても良いし、いずれ店長としてやってもらうことも考えてる」っていうのを最初に言われたんです。だから、頑張れば、ここで自分を表現することができるのかなっていう、強い気持ちもありましたね。
―周りの人の反応はどうだった?
あんまり僕、自分のことを話さないんですよね。遊んでた親友とも、「また働き始めたよ」「じゃあ今度食べに行くね」みたいな感じで。まあ、一度辞めてるから、無理せず頑張ってねみたいな感じでした。
―好きとは何かっていうのは?
ああ、それがさっき言った、自分のセクシャリティの問題になってくるんですけど。人を好きになるってなんだろう?みたいな。何が好きなのかわからない。
たぶん今は、全然ないんですけど、この頃は女性、男性、どっちも好きなのかな?みたいな、なんかよくわかんないなっていう時代だった…。好きな人は確かに居るんだけど、この好きってなんなんだろうみたいな。まあ若いと言えば若いかな?(笑)。
いろんな人に聞きまくってましたね。「好きって、どういう気持ち?」みたいな。
―どんな答えが返ってきたの?
やっぱみんな、「これっていうのはない」って言ったんですよね。明確なものはないけど、まあ一緒にいて楽しいとか、気が合うとか、そういうことじゃないの?みたいな。でも、それって自分もそう思うけど、でも…。
なんて言ったらいいんだろう。僕、女性も好きになる…なってたのか分かんないんですけど、肉体関係はないんですよ。そういう行為を、女性とはできないんですよね。だから、それでも好きなの?みたいな。これ好きじゃなくない?みたいなのは悩んでたかな。
―女性に対して、性的な感情が生まれなかった。
全くないです。なんか…むしろ、気持ち悪いって思ってしまうような感じですね。確かに、一緒にいて楽しいし、なんか手つないだりとか、こうキスをするぐらいだったらいけるんだけど、それ以上になると…嫌悪感みたいな。だから無理なんだろうなって。
―この女性といると落ち着いた気分になるなとか、居なくなったら困るなとか、そういう親しい感情を抱くことはあったの?
ありましたね。この頃から、ほぼ時間の大半を一緒に過ごしていた女性がいるんです。それが彼女になって、後々に何年も付き合うことになる方なんですけどね。その人とは、何でも話せるし、一緒にいて楽しいし、全然苦じゃない…ずっと一緒に居たいみたいな気持ちを、その人に抱いていました。
▼7年前
メンタルと彼女 / 居候
僕、調理の専門学校行ってて、彼女とはその時からの仲なんですよ。同級生。それで卒業した後も、絡んでくれる方だったんですけど…、猛アタックされたんですよ。でも僕はやっぱ、恋愛対象ではないからお断りしてたんですよ。まあ、理由は言わずですけど。
でも3、4回ぐらい…諦めずに来てくれてたんですよ。たぶん、僕がお付き合いを断っても、一緒に遊んでたから、まあ変に期待させたっていうのもあると思うんですけど。それだけ来てくれるなら、付き合いましょうということになったんですよね。
そこから彼女っていう立ち位置に変わってくんですけど、そのぐらいの時から、徐々に自分の中に積み重ねてきた、その仕事上の苦労や辛さとか、セクシャリティに対しての悩みとかが、彼女と密になればなるほど、自分を苦しめてってたんですよね。徐々に徐々に。
自分は、女性を好きになるのかもしれないですけど、そういう、まあ、身体の関係で、満足はさせてあげられないし。でも、離れたくはないみたいな。じゃあ、好きってなんなんだろうって。
お付き合いするときに、あっちから言ってくれたんですよ、「もしかして、君は男性のことが好きなの?」って。それで、「そうだよ」って。彼女は「それでも、好きだから付き合って」っていうのが、始まりだったんですよ。
そこまで理解してくれてたから、「君の期待を裏切ることもあるかもしれないけど、それでもいいんだったら…」って、彼女と付き合い始めたんです。だからまあ、自分のことも理解してくれるから話しやすかったし、居て楽だったし。
―男性が好きということを自覚してて、それを彼女に伝えてでも、キミは彼女と付き合いたいと思ったんだ。
やっぱり、何回も来てくれるっていう気持ちに押されたっていうのもあるかもしれないですね。この人とだったら、こんなに自分を諦めずに来てくれて、その…気づいてたわけじゃないですか、僕が男性を好きになることを。そこまで分かって、自分と一緒にいたいという覚悟がある人とだったら、幸せになれるんじゃないかなって。好きっていうのは何なのかという悩んでた自分に、光が見えた感じでした。
―居候というのは、彼女のところに?
そうです。この頃、ちょっとメンタルのバランスを崩してて。さっき、他の人に自分の気持ちは言わないって言ったと思うんですけど、自分の中でめっちゃ溜め込んじゃうんですよ。それで、仕事でも色々あって…、抱えてたものが一気に爆発したんですよね。それで彼女から、「病院行ったら?」って言われて、それから通院するようになって。ああ、なるほどねって。自分の気持ちはこんなにも蝕まれてたんだって思って。
通院が必要な状態なのが分かったのと、なんか仕事をやめたり、働かない期間があったりとかして、自分に自信が全然なかったんですよね。だから、親と顔を合わせるのが嫌で、喋りたくもないなって。それで、彼女のおうちに転がり込んでたわけですね。
なんか一時期は、彼女の家の駐車場で、彼女の車の中で、夜一緒に寝て、朝起きてみたいな暮らしをしていて。そうしたら、彼女の親御さんも結構自由な人で、「そんな車の中で寝てるなら、家で寝ればいいじゃない」みたいな感じで、普通に一日過ごさせてくれたんですよ。お風呂も使っていいし、一緒にご飯食べればみたいな。今考えたらすげえなって思います(笑)。
―すごいね。彼女の家族も受け入れてくれたんだ。
いやあ、めちゃくちゃありがたいですよね。それに尽きますね。彼女と付き合ってると、はっきり言ってないし、事情も深く聞いてこないし、僕がどういう人間なのかも知らないのに、受け入れてくれたっていうことが、すごくありがたかったですね。
この彼女にして、この親御さんもすごい優しい人だなって。めっちゃ感謝してましたね。それに甘えてた部分もありましたけど…。
▼6年前
Wワーク / 同世代
―Wワークとあるけど、お仕事の仕方が変わったのかな?
さっき話した飲み屋さんのところは、依然続けてたんですけど、なにせ飲食業なんで、やっぱお給料自体はそんなによくないんですよ。個人店だったから、深夜時給っていうのも換算されないんですよね。だからお給料自体、すごくフラットで。ボーナスもなければ、福利厚生もないというところで。
それでまあ、これはもうちょっと厳しいだろうということで、もうひとつお仕事を探し始めたんですよね。副業っていうんですか?それで、ネカフェでバイトをするようになりました。早番でバイトして、夜は飲み屋さんの方をやるみたいな感じですね。
―この頃、体調は大丈夫だったの?
一応、精神的には徐々に回復しつつあったし、そんなには苦しくはなかったですね。病院に通いつつ、掛け持ちで仕事して…、相当身体をいじめてましたね(笑)。
―飲食以外の仕事は初めて?
そうですね。実際、ネカフェのバイトも3、4年か続けていくんですけど…、まあ嫌な面もあったけど、楽しかったかな?飲食とはまた違うサービス業だし、職場の人との関わりも楽しかった。自分のなかでは、新しい感じだったんですよね。
たまたま同じ時期に、ネカフェで同世代の同僚が3人出来るんです。ダブルワークで俳優を目指してるひと、バンドマン、もうひとりは学生。それでまた、自分を比較し始めちゃうんですよね。「その人たちめっちゃ輝いてる!」みたいな。僕、あんまり同僚っていうのがいなかったんですよ。最初の職場もそうだし、飲み屋さんも歳が近いっていう職場の人が少なかったので、その時のネカフェが初めてで。
―同世代と比較すること、今回は重荷にならなかった?
重荷まではいかなかったけど、やっぱみんな、行動力すごいなーって、ぼやっとした思いはありましたね。自分はもっと、何かできるのかな?みたいなのも。
▼5年前
人生の迷子(昔から)/ 一度目の彼女との別れ
彼女と何年か付き合って、この頃も好きでは居たんですよ。彼女への気持ちは変わらなかったんですけど、やっぱり自分は男性が好きっていうのは、もう依然ずっとあって。街中で可愛い男の子がいたら、その子を見ちゃったり…。「この気持ちを抱えたまま、彼女と一緒にいるのって、どうなんだろう?」っていうのが、強くなり始めたんですよね。
昔から人生の迷子っていうのは、自分で(男性が好きということを)自覚し始めたのが学生の頃だったんで、その頃から周りのノンケの子たちと比較しちゃったりとか。やっぱり、周りの結婚、出産っていうのを聞き始めて、これでいいのかな…みたいな。それと、彼女への申し訳なさがあって。
僕、ずっと悩んでるんですね。ずっと悩んで、ずっと比較して。
―ずっと悩んで、ずっと比較して。
それが僕の人生なんですよね(笑)。
あるとき、彼女に話を持ちかけたんですよ。まあなんでかって言ったら、僕が浮気したからなんですけど…。浮気したってのも、付き合ったりとかではなくて、会いに行って…なんやかんやみたいな。
―会いに行ったのは、男性?
そう。彼女とめちゃくちゃに喧嘩した日に、会いに行きました。
―他の人とそういう…浮気をして、その時、自分の気持ちとしてはどう思ってたの?
やっぱり、男の人が好きなんだなって強く認識したから、このままじゃダメだって思いましたね。彼女も幸せになれないし、自分も幸せになれない。ってめちゃくちゃ思いましたね。だってもう、すでに泣かせてるわけだし、これはダメだろう。彼女との、この関係は良くないなと思いましたね。
その、彼女と身体の関係を持てないのがツラいんですよね。彼女はいいよと言うんだけど、求められることもしょっちゅうあって。でも、身体に触れるのイヤだから…彼女のことは、めちゃくちゃ泣きながら触ってました。暗いなか、バレないように。自分も満たされないし、彼女も満たされなくて…。
それで、彼女と話す機会をつくって、色々あったけど、お互いのためを思うなら、綺麗事じゃなくて…別れようみたいな。もっといい人いるよって。
でも、「別れたくない」って、彼女が言ってくれたんです。
なので、「じゃあ連絡を一切取らず、しばらく時間を置いて、またここで会おう。そのときは…、ヨリを戻す、戻さないは別として、また気持ちをお互いに整理してから会おう」みたいな感じで。そうして、彼女と別れました。
自分も、出来ることなら別れたくなかったっていう気持ちはあるけど、半分は別れたかったのかもしれないですね。この苦しい気持ちから解放されたいとか…あったと思う。けれど、やっぱり気持ちが変わらなくて、そして、彼女も気持ちが変わらないんだったら、やっぱりそれは一緒にいてもいいんじゃないかなって、そんなふうに思ってました。
(後編へ続く)